粘りの強さと噛むほどに口の中に広がる甘みが魅力の五郎兵衛米。多くの高級料亭でも扱われる程高い評価を受けるこのお米は、恵まれた土地と環境のみならず、作り手の数々の努力とこだわりによって実現した唯一無二の産物です。
本記事では、五郎兵衛米の特徴や歴史とともに、生産者である依田さんの栽培へのこだわり、安心安全なお米作りの秘訣、五郎兵衛米の美味しい食べ方などについてご紹介します。
幻のお米と呼ばれる五郎兵衛米とは?
五郎兵衛米とは、長野県佐久市旧浅科村の一部地域で栽培されている、信州コシヒカリです。蓼科山から流れ出る清流と強粘土質な土壌が揃う恵まれた土地でしか栽培できないことから、「幻のお米」とも呼ばれています。
さらに、トップレベルの日射量とこの土地ならではの寒暖差によって、一粒一粒にしっかりとした粘りと甘みのあるお米へと仕上がります。五郎兵衛米は、炊きたてはもちろん冷めても美味しく、お弁当やおにぎりとしても美味しく味わうことができます。
五郎兵衛米の歴史
五郎兵衛米の産地である五郎兵衛新田は、はるか昔は山に囲まれた荒地でした。ところが、江戸時代に市川五郎兵衛真親(いちかわごろうべえさねちか)が私財を投じて約20km続く五郎兵衛用水を築いたことにより、この旧浅科村地域での新田開発が行われました。
五郎兵衛用水の水源は、蓼科山(たてしなやま)の標高約1900mから流れる清流です。この清い水を使ってつくるお米が美味しいと評判になったことから、「五郎兵衛米」と名付けられました。
そしてこの五郎兵衛用水は、2006年に農林水産省の疎水百選の1つに選ばれ、また2018年には、国際かんがい排水委員会(ICID)によって世界かんがい施設遺産に登録されました。このことは、先人の努力を引き継ぎ、今もなお自然の恵みを守り抜いていることの証とも言えます。
高級料亭でも扱われている
五郎兵衛米は、その高い評価から多くの高級料亭で扱われています。五郎兵衛米が誕生するまでの歴史と生産者の依田さんが持つ強いこだわり、お米への想いが合わさって作られている五郎兵衛米は、その美味しさと希少性から高い評価を得ているのです。
五郎兵衛米は希少性米のため生産量が少ない
五郎兵衛米が「幻のお米」とも呼ばれている理由は、希少性が高いことで全国に流通することがほとんどなく、知る人ぞ知るコシヒカリ最高峰のお米であるからです。高い評価を得ながらも希少性が高いのには、以下のような理由が挙げられます。
大量生産したくてもできないお米
長野県の中でも小さな村である旧浅科村には、五郎兵衛用水を使って栽培することができる水田はわずか400ヘクタールしかありません。さらに、稲一本一本を大切に育てるために、田んぼの約7割程度しか苗を植えないというこだわりがあります。すると必然的に収穫量は少なくなります。
通常のお米よりも手間がかかるため生産者も少ない
限られた土地でしか栽培できないことや強いこだわりから、通常のお米の栽培よりも多くの手間がかかります。また、小さな村であるため生産者が年々高齢化していることなども相まって、さらに生産者が少なく希少性米となっているのです。
THE 五郎兵衛米 信州佐久オーガニック研究会とは
五郎兵衛米の生産者である依田さんが代表を務める「THE 五郎兵衛米 信州佐久オーガニック研究会」という会社があります。五郎兵衛米を購入することができる通販サイトの運営や、依田さんの社会情勢に対する想いや願いを形にするべく、お米を通したプロジェクトの運営などを行っているそうです。
この研究会は、依田さんの五郎兵衛米にかける愛情や様々な熱い想いから、1993年に設立されました。生産におけるこだわりや努力は、五郎兵衛米を実際に口にすることですぐに納得がいくでしょう。
生産者である依田さんのこだわり
五郎兵衛米の生産者である依田さんは、農業とは無関係の仕事や様々な経験を経て、故郷である長野県佐久市旧浅科村でお米の栽培を始めました。
依田さんのお米作りにおいてのこだわりは「自然の力を信じ謙虚な気持ちで向き合うこと」。五郎兵衛米を生み出す様々な自然の力に感謝しつつ、化学肥料と農薬を多用する農業を改め環境に優しく持続可能な農業を目指しています。さらに、こだわりの栽培技術によって、さらなる味の向上に励んでいます。
研究会での過去のプロジェクト実績とは
THE 五郎兵衛米 信州佐久オーガニック研究会は、クラウドファンディング・プラットフォームを通して、2017年に「親と離れて暮らす子供たちに美味しいお米を食べてもらいたい」というプロジェクトを開始しました。日本には親や家族と離れて暮らさざるを得ない子供たちが数多く存在している実態に目を向けて、自身が作った安心できる美味しいお米をその子供たちに食べてもらいたい、という思いから発足されたそうです。
そして神奈川県箱根町にある児童養護施設、箱根恵明学園へ、1年で100kgの五郎兵衛米を寄贈したそうです。そしてさらに次のプロジェクトでは、1ヶ月で100kg、1年で1,200kgの五郎兵衛米を贈りました。
こういったプロジェクトを通して、子供たちの食育や未来に繋げていきたいという想いがあります。
参照元:camp fire「親と離れて暮らす子供たちに美味しい五郎兵衛米を食べてもらいたい。」
https://camp-fire.jp/projects/21265/backers
生産者の依田さんに聞く!五郎兵衛米が他と違う理由とは
五郎兵衛米の栽培に日々励む依田さんに、五郎兵衛米の他のお米とは違う点やその理由をお聞きしました。水、日射量、土壌の3つの要因において、五郎兵衛米が育つ五郎兵衛新田ならではの恵まれた環境があるようです。
- 蓼科山からくる清らかな水
- 高い標高と日本有数の晴天率を誇る
- 強い粘りを生む強粘土質の土壌
1.蓼科山からくる清らかな水
五郎兵衛米と他のお米の違いとして、まず「水」の違いが挙げられます。栽培に使用する五郎兵衛用水は、蓼科山の標高1900mから湧き出た天然水が水源となっています。五郎兵衛米という名の由来になったことからも分かる通り、五郎兵衛米の美味しさはこの水によるものが大きいといいます。
水の品質が良いほど微生物が活発になり、土も良くなっていきます。清らかな天然水が贅沢に田んぼに流れてくる環境は、先人が努力の末に築いた、他では真似できないとても恵まれたものです。
2.高い標高と日本有数の晴天率を誇る
山に囲まれた長野県は、標高の高い土地が多くあります。そのことから日中の気温は一気に上がり、反対に夕方以降になると太陽が木々に隠れ気温はみるみる降下していきます。この1日の寒暖差に負けずに育つ稲は、甘みを十分に蓄えたしっかりとしたお米へと成長していきます。
また長野県は、全国各地においてトップクラスの日射量を誇る県でもあります。その中でも佐久市は上位の日射量で、そんな環境で育つ五郎兵衛米は、さらなる甘みを蓄えながらグングン成長していくのです。
3.強い粘りを生む強粘土質の土壌
旧浅科村の土壌は、コンバインの寿命が通常の半分になるほどの強粘土質だといいます。強粘土質であるということは、蓼科山から流れ込むミネラルを多く含んだ天然水や肥料を保つ力が豊かで、稲にたくさんの栄養を余すことなく吸収し満遍なく行き届くということです。
たくさんの栄養を蓄えて育った稲からは、炊いたときの強い粘り気や甘みが魅力の美味しいお米ができるのです。
生産者の依田さんの徹底した栽培へのこだわりとは
五郎兵衛米の生産者である依田さんは、これらの恵まれた土地や環境に甘えることなく、数々の努力やこだわりによって五郎兵衛米の美味しさを実現しています。そんな他のお米にはない、栽培への徹底したこだわりについてみていきましょう。
- 良いお米が実るための緻密な施肥設計
- 田んぼを通常よりも多く耕す
- 極限まで農薬を減らした安全なお米作り
- 植える株数を制限し、一本一本を大切に
1.良いお米が実るための緻密な施肥設計
稲に窒素が過剰に含まれないように、緻密な施肥設計を行っています。有機肥料であっても、肥料が多すぎると窒素過剰になり必要以上に大きく育ってしまいます。大きくなることで稲が倒れると、お米の品質が著しく落ちてしまうので、良いお米が実るためには緻密な施肥設計が欠かせません。
またお米の収穫量を増やすための追肥は行わず、出穂の18日前と決めています。お米の収穫量はその年の天候に左右されるものですが、収穫量を増やすことよりもどんな天候でも安定した品質と美味しさのお米を作ることを大切にしています。
2.田んぼを通常よりも多く耕す
美味しいお米を栽培するためには、稲の根がきちんと呼吸ができる環境づくりは必要不可欠です。そういった環境で育つことで、土の中に根がしっかりと張り、天候に左右されない丈夫な稲へと成長します。
依田さんは、五郎兵衛水新田の特徴や環境を見極め、年に4回という通常の倍以上多く田んぼを耕すことにこだわっています。
畑を耕すことでより多くの酸素を土に供給し、土に負担をかけない土作りを行っています。
3.極限まで農薬を減らした安全なお米作り
お米作りにおいて、通常20成分の農薬を使用するところを、依田さんの五郎兵衛米の栽培では4成分に抑えています。その4成分を使用する目的も、お米というよりも主に除草に必要であるためです。
標高の高さから風通しの良い環境で育つ五郎兵衛米は、稲の病気であるいもち病の心配がありません。そんな環境を活かして、極限まで農薬の使用を減らした安心安全なお米づくりにこだわっています。
特別栽培米に認定されている
五郎兵衛米は、農林水産省が定める「特別栽培米に係るガイドライン」に従って栽培された「特別栽培米」です。
特別栽培米とは、減農薬栽培などの特色ある方法で栽培されたお米のことです。節減対象となる農薬や化学肥料の各地域の使用状況と比較して、節減対象の農薬の使用が5割以下、化学肥料の窒素成分量が5割以下であることが義務付けられています。
また、この基準となる数値は各地域によって差がありますが、長野県はより厳しい基準が設けられている都道府県の内の一つです。例えば一つの農薬を一成分とすると、通常は24成分使用可能であるところを、長野県では半分の12成分しか認められていません。
つまり、長野県で特別栽培米としてお米を生産するには、さらに5割減となる6成分以下で栽培しなければなりません。そんな厳しい条件をクリアし特別栽培米として認められている五郎兵衛米は、美味しいだけでなく安心安全なお米としても認められているのです。
4.植える株数を制限し一本一本を大切に
植える苗の数を減らす「疎植」を行うことで、稲一本あたりの栄養分の確保や太陽の光が当たりやすくし、一本一本を大切に育てています。さらに、風通しが良くなることで病気にかかりにくくなるというメリットもあるため、田んぼの面積は通常の7割しか使わないようにしています。
五郎兵衛米の美味しい食べ方とは
五郎兵衛米は、一粒一粒がしっかりとしていて強い粘り気や甘みがあるのが魅力です。そんな五郎兵衛米を美味しく炊くためのコツと、おすすめの美味しい食べ方をご紹介します。
- 炊く時は水を少なめにするのがおすすめ
- そのまま食べても噛むほどおいしさと甘みが広がる
1.炊く時は水を少なめにするのがおすすめ
五郎兵衛米は米粒自体に水分が含まれているため、炊くときは水加減は少し少なめにするのがおすすめです。また浸水はしっかりと行うことで、米粒の中心まで水が染み込みふっくらとした仕上がりになります。
2.そのまま食べても噛むほどおいしさと甘みが広がる
炊きあがったごはんは、お米自体の味を堪能できるようなシンプルな食べ方がおすすめです。甘みがあるため、漬物や佃煮などの塩気があるおかずとの相性も抜群。また冷めても美味しく、おにぎりやお弁当に入れても喜ばれます。
まとめ
蓼科山から贅沢に流れる天然水、全国トップクラスの日射量と昼夜の寒暖差、栄養を逃さない強粘土質の土壌。五郎兵衛米は、これらの恵まれた土地と環境、そしてさらに依田さんのお米作りに対する数々のこだわりによって作られています。美味しいだけでなく安心して食べられる品質の良さは、自然だけでは成し得ない努力の賜物です。
お米の収穫量よりも稲一本一本を大切に、どんな天候でも安定した安心安全なお米づくりを目指す依田さんの想いは「五郎兵衛米」という最高峰ランクのブランド米となって実現し、多くの人を魅了しているのです。